横浜M邸+ZART(地域コミュニティスペース)

街と関わり合いながら住み続ける

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既存建物改修後「ZART」(左)と新築住宅(右)

  • 家づくりの経緯

(AA STUDIOの「ナビゲートサービス」を利用して実現したケースです)

2012年5月、ウェブサイトで情報を得られたクライアントがAA STUDIOを訪ねてこられました。ターミナル駅0分の立地に祖父の代に建てられた築50年以上の補強コンクリートブロック造2階建の共同住宅兼用住宅に当時も居住中で、郊外に新たに土地を求める、管理の良いマンションを取得する、など様々な可能性を検討された結果、やはりご自分が生まれ育った場所で、その街と関わり合いながらこれからも住み続けたいと決断されてのことでした。

AA STUDIOのナビゲートシステムを利用し、3人の建築家と面談の結果、荻津が設計を担当することになりました。

この出会いから始まったプロジェクトは、新築住宅が2014年初に竣工を迎え、その後既存建物を改修した地域コミュニティスペース「ZARTツアルト」の運営が立ち上げられ、2016年秋現在、ツアルト絵画教室、NOVEL(ナーベル)英会話教室などの活動が軌道に乗り、NPOの事務所としても利用され、さらに地域に開かれた場所を目指して地下空間をギャラリー・スタジオとして活用する企画も進められています。

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  • 計画の概要・設計のプロセス【既存建物の活用】

周囲は商業防火地域に建つ10階建て以上のビルに囲まれ、4m以下の2項道路に囲まれた敷地はまさにビルの谷間という立地です。

両隣には繁華街の賑わいを支えるコインパーキング、並びには古くからの2階建て住宅、新築3階建て住宅が混在するその区画は必ずしも良好な住環境というわけではありませんが、その利便性を享受しながらどのようにしたら予算内で安全安心にこの愛着のある街に住んでいけるのかを議論するところから計画は始められました。

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直前まで住まれていた建物は、昭和30年代のシンプルなモダニズムの面影を色濃く残したデザインで、構造調査の結果は強度的に現在の耐進基準にも適合しうるものでした。しかし、15室の大半が4畳半の個室で、共同炊事場、共同トイレ、浴室なしという共同住宅は、銭湯の数も減った現代では当初の都市機能の一部を担ってきた役割を終えたといった風情で佇んでいました。

設計に先立ち、4つの計画の考え方を検討しました。

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①既存建物の躯体は保存して、すべての内装と設備を更新して住宅として必要な機能を満たすリフォームを行う。【写真左上】

②既存建物の1/3を解体し、キッチン・浴室・トイレ等水廻り機能を新築し、その他の住宅に必要な機能は残りの既存建物を改修して対応する。【写真右下】

③既存建物の2/3を解体し、残りの敷地に住宅としてすべての機能を持った建物を新築する。【写真右上】

④既存建物はすべて解体し、新たに住宅を新築する。【写真左下】

 

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さまざまに検討、議論を重ねた結果、既存建物の1/3には地下室がありその解体に費用がかさむこと、3階建にすれば敷地の2/3程度の中に必要な住宅機能が収まること、自分が生まれ育った建物をできれば一部でも保存したいという想い、残す既存の建物が都会の雑踏や喧騒からの防御に有用であること、などから

③の考え方:「地下室のある部分の切り離し保存+コンパクトな新築」で進める決断に至りました。

横浜の歴史と文化を体現する既存共同住宅、昭和モダニズムの面影のあるシンプルなファサードを持つ既存建物を、新築する住宅を都市の喧騒から守る防御帯に見立てて交差点側の三分の一を切り離して残します。南側に2階建ての既存建物を残すことで北側新築部分の2、3階への採光を将来的にも確保できることにもなります。

設計の段階では既存部分は地域に貢献できるスペースとして再生することを念頭に、当面は屋上を都会のオアシスとして緑化するなどにとどめ、できるだけ現況を保存し、今まで積み重ねられてきた時間に未来の時間が折り重なるように、新しい生活の中で構想を練り上げていくように考えていました。

  • 新築住宅部分の概要

yokohamam-12【新築住宅の夕景外観】

都市の喧騒から住居を守るため鉄筋コンクリートの壁構造を採用し、中央の階段脇の2枚の壁をコアとし、周辺の都市環境に対して防御的でありながら、光と風と空を取り入れつつ、安心感のある佇まいを目指しています。モダニズムの端正な既存建物に対して、車の回転軌跡の確保を考慮して導かれた鋭角的な形態が寄り添うように並びたっています。

yokohamam-13【朝日の外観】

 

yokohamam-14 yokohamam-15【2枚の構造壁と階段】

新築部分の1階は通り庭状の駐車スペースとオーバーホールした50年前のフクヤマピアノを設置するラウンジと個室で構成されます。

yokohamam-16【1階玄関ホールと階段】

yokohamam-17 yokohamam-18【1階ラウンジと個室】

2階は家族の共有スペースで、周囲からの視線を遮りながら採光と通風も確保できるように開口を慎重に配置しました。

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yokohamam-22 yokohamam-23【2階リビングと和室】

3階は主寝室と個室で、南側は吹き抜けとし上部からの光が2階まで届くと同時に3階の吹き抜けに面したホールに置かれたピアノの音がリビングへと響き渡る構成としています。

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yokohamam-25【既存建物屋上より】

yokohamam-26【既存建物と新築住宅の隙間】

 

  • 既存部分の改修

既存部分は地域に貢献できるスペースとして再生することを念頭に、内装仕上は撤去し、建築当初からの繊細なスチールサッシや建具を活かし、構造体のコンクリートブロックや床のコンクリートは現わしのままとしています。

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計画概要

場所:横浜市中区
設計監理:荻津郁夫建築設計事務所
用途:住宅
家族構成:夫婦.子ども2人
延面積: 166.44M2(50.34坪):新築部分
構造:鉄筋コンクリート壁構造 3階建
竣工年月日:2014年1月