箱根別荘

■設計のポイント

①既存構造物の利用とコストダウン
既存増築部のコンクリート基礎を残し新たなテラスのスペースとする。

②柱、梁等の構造体が見えるインテリアとする。既存建具の再利用も可能に。
(既存建具の使用は高さや幅の調整が必要無い際はコストダウンになる)

③屋根軒の出を750~1200とし、外部雨の影響を極力抑え維持管理費の削減を意図する。屋根壁、外部の仕上げ材をガルバリュウム鋼板、水はけの良い、長持ちする素材を使用。

④建具は木製、金属建具を問わずペアガラスとしている。

⑤壁は内部結露のない、透湿可能な素材で構成している。断熱材も透湿性のあるものを選択しており建物の長寿命とメンテナンスフリーを志向している。

■プランの特徴

①8帖二間続きの16帖と、独立した10帖(ロフト)により、一家族から三家族程度の同時利用が可能。

②各部屋からは、隣接の部屋を通らずにキッチン、バスルーム、トイレなどアプローチできる。深夜のトイレの際、又男女別に部屋を分けた際、二間のうち居間と寝室に分けた際などに便利。

③南側の玄関から北側のデッキまで土間を通り抜けて下足のまま屋外テラスへと通行ができる。デッキを洗濯物干し、布団星の場として利用する際も便利。

④高所のロフト窓を利用し、家全体の換気効率を高めるプラン。(不在時の換気)

⑤東側は南より比較的明るい。外部テラスとつなげる意味でも、東をメインの採光方向とし、建築も東に向ける。

⑥南側は、高木の常緑樹が多いので比較的暗い。木立の林立を絵として眺めるタイプの窓を設ける。

⑦トイレ使用とバス使用が重なる場合、洗濯機置き場ゾーンを脱衣スペースとして区切る。

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昔は富士山がここからよく見えた!
北側の庭に向かってコーナーを開け放つ廻り縁のついた座敷、
そこから見えるのは杉や桧の木立、おまけにその後建った隣家まで見え昔日の面影はない。
人の背丈ほどだった樹木が何十年もたつとすっかり視界を覆ってしまう。
そればかりか枯葉が屋根に積もり雨漏りの原因を作っていた。
でもどこかないかな?ちょっとでも見えるスポットが!そんな思いで古家の屋根に上ると、あった!木立の隙間越しに、望むスポットが!
そこまで富士山にこだわらなくても屋根のてっぺんから東に視線を移すと、雄大な箱根の連山が眺められるではないか!
南側も鬱蒼とした林になっていたので少し樹木の伐採が必要だな、北の景色に重点を置きつつ南の陽光も取り入れるプランにしよう。
だが樹木の伐採費用以上に頭を悩ますことがあった。
なんと道がない。
昔、古家がたっていたころは適当だった敷地割がその後の変化で近隣まで家が建ち気付いてみると道路だったところがハイキングコースになっていた!
何とか土地を道路状に買いまして現行法規で確認申請が通る形にしたもののそこからは資材の搬入が望めぬ傾斜地。
これはもうハイキングコースを拡幅して道路にして資材を搬入するしかない!建築の費用が樹木の伐採、道路の敷設へと、削減されてゆく!
予算の制約は今までで一番厳しい部類に入る。
旧家の基礎を利用できないか、残土は敷地内で処理できないか、
人力で資材を運ぶよりやはり道を作ったほうが安上がりか

などコストとの奮闘が始まる。

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前の画像は玄関の大戸を中心に眺めていた。
今回は少し東側に回り込んでみている。
すると正面の画像だと見えなかった背丈のあるコンクリート基礎が右手に見えてくる。つまりこの建物の裏側へと敷地は傾斜してゆきそれは麓まで続き、その間傾斜にへばりつくようにいくつもの別荘が建つ。
富士山は?といえば中央白い扉の後ろの方向にある。
右手には箱根の連山を望む。
先ほどのコンクリート基礎の上は浴室でその箱根連山へと展望が開けている。2階のガラス面が北側になりここから箱根連山が見渡せる。

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富士山は西日を浴びる右側の樹木の方向だ。
ご覧のように敷地はかなり傾斜しており、一番基礎の高いところで2メートルある。
この基礎も旧家屋の物を再利用し、コンクリートを流し込む型枠としてもとらえて、内側に新たな基礎を作り補強している。1階の手前角は浴室になっており、近くの緑や箱根連山を遠望する。
浴室外部にバルコニーがあり火照った体を夜分、陸風にさらす。

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このように建物はくの字に折れ曲がった形となる。
この画像は建物の北側を写している。
ちょうどくの字に折れ曲がったあたりのガラス面から富士山が見えるはずだ。

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手前画像下が西面になる。
南面の画像を見れば単なる片流れ屋根のようにも見えるが裏手でこのように折れて3面に屋根が分かれている。
その3面が点で交差する画像の中央付近のポイントは複雑でプレカットではなく大工の手刻みによる。

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週末住居であるため、3家族が同時に宿泊する事を想定している。
全体が大きなワンルームだけれど3つのゾーンに間仕切ることができる。
写真手前のゾーンと正面白い扉で塞がれたゾーン、そして、その上の2階部分だ。
したがい写真のダイニングスペースは家の中央部にある、というのが全体の構成だ。
右手の光を受けているスペースは玄関。
左に見える2階への階段は建物形状に沿って折れ曲がる。
2階から階段を下りてくるときにガラス窓から富士山を垣間見るポイントだ。
階段下、奥のゾーンにはバストイレなど水回りが備えられ、各部屋から独立したアクセスが取れる。

前の写真撮影位置からダイニングテーブルに近づいて写したもの。

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正面の白い扉は右側の壁に引き込まれ写真の様な別室が現れる。
通常はこのようにダイニングと一体化して使用されている。
既存家屋の和室で使われていた書院の建具と欄間を2階ゾーンに使っている。以前の建物ではその和室に子供たちがごろ寝状態で宿泊していた。
このように建物が新しくなっても、子供たちの記憶とつなげることで新しさ、よそよそしさを和らげている。

木部の多くはオスモ、テーブルはワトコオイルとしベンガラは今回階段の手摺壁やダイニングテーブルの腰板部分に限定している。

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右の玄関側によって撮影した。

屋根を支える梁組だが模型写真で見てもらったように上から見るとくの字に折れ曲がっており木組みにも工夫がいる。
如何にシンプルに、美しく見せるかがポイントになる。
建物中央のダイニング部分は吹き抜けとなっている。
よって手前と奥から、梁や母屋が吹き抜けに張り出して屋根を直接支える垂木を受けている。
中央のオスモを塗った板壁にみえる梁は2階床を支えるほかに吹き抜けまで伸びてきて、はねだし先端に束という小柱を載せている。
小柱は小屋梁を支え垂木を受け全体の木組みが成り立っている。
全体が板壁になってみえるのでどれが柱で、どれが梁かわかりづらいが水平と垂直を意識してみてください。すべて現れています。

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キッチンを正面から見た画像。屋根の木組みに注目すると奥から手前に向かって3本の梁が飛んでいる。
左手、間仕切り建具レール溝の入っている梁、右手の小柱で支えられている梁、この二本は水平だが中央の梁は奥から手前に向かって登る。
画像では見えないが、最終的には右側の梁と合わさり、屋根の折れ曲がるポイントになっている。
写真右手の梁が中央の梁と合流すると書いたが

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実際どのようになっているのかを説明する画像です。前の画像を北面とすれば、正反対の南面を見ている。

右手だった梁は左手になり中央の梁に寄ってきている。左手の梁はそのまま壁をいったん突き抜けて更に伸びて屋根の屈折ポイントを外側で造る。
右手の梁は間仕切りの鴨居をかねて3つの個室のうちの一つとなっている。

正面左手の光を浴びている壁は玄関入り口ゾーンだ。
手前はダイニングのテーブル、IHが埋め込まれている。

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これから住宅を建てようとなさっている方は無論建築全般に関心を寄せる人々も増えているように思う。
先だっても30人ほどの仲間で著名建築家のホテルを案内したが何人かの方々から説明をうけてより建物について興味がわいたとの感想をもらった。

このように建物の説明をしてはたして何人の方が興味を示してくれるか知る由もないが続けましょう。

前の画像右手に写っていた窓を拡大したもの。
右端の換気用の窓には網戸となっているが普段はガルバリュウムで包んだ白い板戸でここだけ閉じられている。
閉じると壁のようになり外が見えないし3分割されていた窓が上下2か所に減る。が逆にあけた時は壁が撃ち抜かれて窓になった!
程の解放感が生まれる。

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前の画像の窓を左に見ている。
板戸は開いた状態だ。
撮影位置から奥が個室になり手前で間仕切ることができる。
エアコンの設置位置には毎回工夫が要求される。
今回突き当りのエアコン設置の背面の壁はその下の窓やエアコン下の白い扉の面よりも奥まっている。つまり窓から上の壁は外に出ている。
1枚目の画像の左端にその様子を見ることができる。

室内側には奥行きのある陰影を造っている。

建具上には梁を水平に回しているが、よく見ると高さが違う。通常は高さ270×巾120の梁を回すが左手の窓では120×120、正面は120×270、そして右の太い梁は120×450
それほど背丈の必要な場所ではない。
けれど、9枚目のキッチンを正面から見た画像を見ればわかる。
左手から伸び、屋根を支える登り梁を受ける為この高さが必要なんだと。
見た感じも太く、逞しい。

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前写真の右手を、今度は正面から見ている。
実際より広めの写真だったが、今回は現実のスケールに近い。
45㎝の高さを持つ梁が正面に見える。
天井は茶色に素地塗装を施しているが計画当初は素地のままであった。
床板や建具の小口が木の素地で天井まで素地だと明るすぎて室内が見えすぎて狭く感じる。
暗めの方が空間の広がりを感じるものだ。

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東側の個室を見ている。

天井右手にレールが見えるように、
右手のダイニングとは建具で間仕切るが
通常はオープンにして
ハンモックを楽しむスペースにしている。
揺られながら、
1階や2階の窓から
鳥のさえずりに耳をそばだてる。
近くのテニスコートからは
ボールを打ち合う音も。
そのうち日の向きが移動して
夕刻になると、
白壁がだんだん赤みを帯びてくる。
このように
天井に太い梁が出ていると
ハンモック吊るのも容易だ。

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前画像の右側を正面から見ている。
3枚のポリ合板フラッシュ戸
3枚を左端の壁に寄せたたむとダイニングへと開放する。
小口を白木で抑えただけの普通のポリ合板フラッシュ戸であるが
これとてオーダーメードであるので既製のプリント合板ではない味わいがある。
取っ手もステンレス小丸や角を削り込んだユニオンの30センチ程も背丈のある引手にすればもっとかっこよくデザイナーでござい、の建具になるのだがこのシンプルさが良い。
ただ壁天井が白だとこの建具の味わいは同じものでも出てこない。
床壁天井、材の組み合わせで初めてあらわす。

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前の白い扉を開けるとこんな感じになります。
今まで話してきた屋根のこう配
それを支える母屋や梁などがこの画像だとはっきり見えてくると思います。

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センターテーブルも近づいて撮るとこんなに大きく、
前とは全く逆からの撮影でテーブル上のIHコンロの延長がトイレのドア
その右手に白く光る壁は洗面コーナーを隠している
2階へと右に折れ曲がって上る階段も中央に見える。
このように屋根を支える構造体を見せる事は天井を張ってみえなくし、すべて隠してしまうより手間がかかる、見えるから美しく仕上げなくてはならない
それだけ丁寧に手わざで作りこむ必要があるが、そこにこそ想像力もわき癒されもするポイントがあると思う。

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テーブルを超え前の画像より階段に近づいた。
ここまで来ると突き当りのトイレ入り口が物陰っぽいところに仕込まれている、その様子や右奥に明るく解放されたなにか別のスペースが広がっていそうな事が分かる。
手すりも兼ねた階段の壁は実に薄くしているが厚みが3センチの合板を立て、切り口の角を取って持ちやすくしている。
ベンガラで塗られた手摺壁の先は2階の白壁にぶつけず間をすかせ奥へと誘う。

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これは浴室の画像です。

階段わきを通り明るさにつられて歩を進めて行くと、このような開放的な浴室となる。
浴槽と床、壁はFRPで一体化した造りになっている。
外の緑を見ながらの湯あみを楽しむ。
左、外にはバルコニーがありここからの景色は圧巻で下界を見下ろすようなお立ち台のスペースでありまぢかに箱根連山を眺めることができる

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さて2階へと進みましょう。
階段を少し上がったところの画像
白壁に隠れていた
洗面コーナーが右下に見えてくる。
また建物がくの字に折れている
そのなりに階段も曲がってゆく。
「ベンガラの手摺壁が2階へと導く」
としたその様子もここまでくればはっきりとしてくる。
手摺壁のベンガラ、天井や梁など構造材のオスモと2色で対比させている。
塗装工事のオスモはスタッフが階段周りのベンガラは藤本が久しぶりに塗っている。
塗った後ベンガラは乾拭きすると鈍色の艶が出、かつ木目がはっきりとしてくる。
光の当たり具合で変化し横から光を受けたとき木目は銀色に光る。

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事務所のある横浜のマンション11階からは隣の10階建てマンションの頭越しに富士山が見える。冬場の空気が澄んでいるときは特にくっきりとそのシルエットが夕日に浮かぶ。
2階から階段を見下ろした今回画像のこのアングルからも富士が見える、、、
はずなのだが撮影時はかすんでいる。
数十年前、以前の家が建ったころは画像の右側に写る隣家も、また遠方の樹木もなく富士まで遮るものがなかったという。

ここ南箱根ダイヤランドに定住する人は多いと聞く
環境ばかりでなく地域に住む人も変わる。
人も変われば、いずれまた大パノラマをこの階段を下りながら眺める時も来るかもしれない。

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画像は2階部分だ。
ガラス面の延長上に階段があり天井の傾斜なりに窓に沿うて降りる。
もう少し外が遠くまで、続いて見えればいいがなぁ。
景色が白く飛んでいる部分は空ではなく箱根の連山が見える。

■計画概要
場  所:静岡県田方郡
設計監理:藤本 幸充/鎌倉設計工房
用  途:住宅
家族構成:夫婦+子供2人
敷地面積:293.34㎡(88.55坪)
延床面積:71.81㎡(21.67坪)
構  造:木造2階建
竣工年月:2013年7月